1990年、神奈川県生まれ。スポーツ科学研究者。振付家。スポーツ解説者。
現在、國學院大學人間開発学部助教。2020年3月、博士(スポーツ科学/早稲田大学)を取得。専門は、スポーツ&アーツマネジメント、身体芸術論、スポーツ文化論、文化経済学。
主な著書は、『アーティスティックスポーツ研究序説』(白水社、2020年/日本体育・スポーツ経営学会賞)、『若きアスリートへの手紙──〈競技する身体〉の哲学』(山と溪谷社、2022年)。主要論文として、「著作権法によるアーティスティック・スポーツの保護の可能性──振付を対象とした著作物性の画定をめぐる判断基準の検討」(2019年/日本知財学会優秀論文賞)がある。
スポーツとアートの間にある身体運動や舞踊についての、学際的研究を専門とする。
かつてはフィギュアスケート競技者として活動し、2014年ソチ・オリンピック個人戦と団体戦ともに5位入賞、同年世界選手権大会で準優勝を収めた。
2014年12月に競技引退後は早稲田大学大学院に進学し研究活動に励みながら、プロフェッショナルスケーターとしても自らが振り付けた作品を、アイスショーなどで発表。2018年10月にプロを完全引退したが、現在も研究活動のかたわら、振付家としても活動中である。なお、振付家としての成果は、作品映像集である『氷上の舞踊芸術──町田樹 振付自演フィギュアスケート作品 Prince Ice World 映像集 2013-2018』(新書館、2021年)に収められている。
その他、スポーツ教養番組「町田樹のスポーツアカデミア」(J SPORTS、2020年〜/2021年度衛星放送協会オリジナル番組アワード審査員長賞/2022年度衛星放送協会オリジナル番組アワード文化・教養番組部門最優秀賞)の企画制作者、および毎日新聞運動面連載(「今を生きる、今を書く」2020年〜)コラムニストとして、「スポーツ実践者・研究者・社会」を結ぶ思想を、新たな言葉で届ける努力を続けている。
>Tatsuki Machida 町田 樹 OFFICIAL WEB SITE
表現するとは、どういうことか。それを考え、考えたことを言葉や身体行為によって表現しようと試みる、この、謂わば終わりのない円環的な問いに魅入られてしまった氏は、文字どおり休みなく、無窮動なままに問い続けます。表現とは何か、そこに生じる美とは何かと。それが自身の業であることを自覚しつつ、表現という永劫の謎に対峙し執拗に問い続ける氏の姿勢こそ、表現者という存在がもつ野蛮で本質的な力を思い出させてくれます。今後、必ずや表現の新たな地平を拓いていかれることを期待し、ここに当賞を贈ります。 >詳細へ
「サブタイトルの『〈競技する身体〉の哲学』に注目してほしい。昔から今に至るまで、アスリートというのは寡黙な存在だ。決して多くを語ろうとはしない。だがその裏には、はてしなく深く広大な『経験と叡智の海』が広がっている。私は、その海を学術という名のコンパスを片手に航海してみたかった。そして、アスリートによるアスリートのための新しい哲学を立ち上げたいと志し、この手紙を書き始めた。本書のサブタイトルには、そうした私の挑戦的な意図が込められている」(本書の「追伸(おわりに)」より)
全21信の手紙形式のエッセイからなる本書は、第Ⅰ部で、スランプ脱出法やライバルの存在意義、引退やセカンドキャリアの築き方など、次世代を担うすべてのアスリートに伝えたい実践的なメッセージが親身な言葉で語られ、次いで第Ⅱ部では、もう少し普遍的で概念的な問題として、美的探究の心得にはじまり、フィギュアスケートやダンススポーツなどのアーティスティックスポーツが著作物であることが論じられ、たとえば音楽使用のように、如何に競技が他者の著作物利用のうえに成り立っているか、その認識の必要性が説かれてゆく。そして、さいごの第21信で語られる、スポーツを巡る「感動を与える」という言葉への違和感や、スポーツには「力」があると思い込むことの傲慢さへの指摘は、まさに著者の批評活動の真骨頂と言えるだろう。
このように本書は、若きアスリートに向けた手紙のスタイルをとった実用書であるとともに、人間の身体運動や表現と、その精神を考察する哲学書となっている。
山と渓谷社◆定価3,600円(本体価格)
2022年4月刊
スポーツは芸術でもあり得るのか?
フィギュアスケート、新体操、アーティスティックスイミング、ダンススポーツなど、スポーツとアートの重複領域についての斬新かつ学際的な論考であり、町田氏の早稲田大学大学院時代の博士論文がベースとなった一冊。
「アーティスティックスポーツ」(AS)という概念を提唱し、身体運動とその表現を、経営・経済学、法学、社会学、芸術学などの分野を横断しながら探究し、スポーツの世界に新たな沃野を拓いた画期的な著作。本書は全六部構成となっており、その中でアーティスティックスポーツをめぐる「美学論(第Ⅰ部)」、「著作権論(第Ⅱ部)」、「作品批評論(第Ⅲ部)」、「市場経済論(第Ⅳ部)」、「産業論(第Ⅴ部)」、「アーカイブ論(第Ⅵ部)」が次々に展開される。アーティスティックスポーツが著作物たり得る条件を満たしていると論証した第Ⅱ部が白眉だが、さらにこれからの時代に、社会にとってアーティスティックスポーツの文化は如何にあるべきかを広い視点から論じ、スポーツとアートが汽水域のように交じり合う領域における身体運動文化の創造と享受のあり方について、学際的観点から縦横に考察していく。
著者の研究者としての活動が反映された一冊だが、競技者はもとより、財としてのプログラムの存在や公的アーカイブの必要性、競技を鑑賞する観客の立場など、今後のアーティスティックスポーツに関わるすべての人々にとって必読の書。
白水社◆定価5,000円(本体価格)
2020年6月刊
「フィギュアスケーター町田樹」という人間存在の成立と未来が詰まった本。
町田樹は、どのようにしてトップアスリートに、そして競技者のみならず振付・演出家として、真のアーティストに変貌していったのか。「フィギュアスケートは総合芸術である」という信条のもとに彼の活動を支え、プロデュースしてきた匿名の制作家集団 Atelier t.e.r.m(町田自身もその一員)が、ついに知られざる過程のすべてを語る。
フィギュアスケート写真の醍醐味をはじめ、楽曲の選択と解釈、あの素晴らしいプログラムの数々、舞台照明や衣裳制作の秘密に至るまでが、写真や記事で克明かつ客観的に記録され、アーカイブとして表現されているだけでなく、この贅沢な造りの書物じたいが、一つの総合芸術作品となっている。
読者にとって、紙の書物というものが言葉と感動を所有する舞台になるのだ、と強く実感させる一冊。
著者の創作活動を巡る「表現」の世界が、ここにいかんなく展開されている。
また、収録された町田論文「アーカイブが拓くフィギュアスケートの未来」は、著作物としてのフィギュアスケートの今後を考えるうえで示唆に富む。
Atelier t.e.r.m編
新書館◆定価12,000円(本体価格)
2019年10月刊