作家。1970年、福岡県生まれ。2000年、『UNKNOWN』でメフィスト賞を受賞し、デビュー。ストイックで寡黙な語り口のなかに、人間の業を描き出し、新世代の戦争文学を担う。 著書に『アンフィニッシュト』『ルール』『七月七日』『分岐点』『接近』『遮断』『敵影』『メフェナーボウンのつどう道』『線』『ふたつの枷』『ニンジアンエ』『死んでも負けない』など。一作一作を仕上げてのち、次の仕事にとりかかるという地道なスタイルを堅持している。 2010年、第3回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。 2017年には、『いくさの底』で第71回毎日出版文化賞を受賞。
最近作『線』をはじめ、氏の作品に共通するのは、戦場の、それも敗走という極めて困難な状況に追い込まれた人間たちの有り様です。歴史に名を残すことなく死んでゆく一人一人の姿がひたすらに考えられ、冷静に描写されています。 資料精査の果てに、従来の戦記文学を超越し、戦争体験者には書けない物語の領域を切り開かれたことは、まことに当賞の趣旨にふさわしいものです。戦争と人間の真実を伝える文学の担い手として今後一層の活躍を願い、当賞を贈ります。
我が家の生活は、口を開けば戦争の自慢話ばかりするビルマ戦の帰還兵の祖父を中心に回っていた。その頑固で偏屈な祖父が入院し、あり得ない言葉を呟いた。ユーモラスなセンスが作品全体に冴え渡る著者の新境地。
双葉社◆定価1,400円(本体価格)
2012年12月刊
インパール作戦の前年、新聞記者の美濃部は日本軍の英印軍討伐作戦に従軍記者として同行する。イギリス人捕虜の不遜な態度、消えたビルマ人の人質、敵の逃避行動の不自然さ。すべての謎が解けたとき、従軍記者が直面する「戦争の真実」とは。著者渾身の長編小説。
集英社◆定価1,800円(本体価格)
2011年11月刊
負け戦の極限状況と葛藤のなかにこそ「人間」の本質が現れる。戦記でも体験談をまとめたものでもない「小説としての戦争文学」を確立した著者の、結晶のような作品。
集英社◆定価1,500円(本体価格)
2010年7月刊
この一線、超えるのか、踏みとどまるか——。過酷な自然、重い疲労、マラリアの蔓延——。第二次世界大戦時のニューギニアを舞台に、冷徹なまでのリアリズムで、戦場の人間ドラマを描いた短編連作集。
角川書店
2009年8月刊
東シナ海に浮かぶ伊栗島に駐屯する自衛隊の基地で、訓練中に小銃が紛失した。前代未聞の大事件を秘密裡に解決する任務を負い、防衛部調査班の朝香二尉とパートナーの野上三曹が派遣される。通信回線というむき出しの「神経」を、限られた人員で守り続ける隊員達の日常。閉鎖的な島に潜む真犯人、そして真実はどこに。
文春文庫
2008年12月刊
単行本・2001年4月講談社ノベルス刊『未完成』改題
1944年6月、多くの民間人を抱えたままサイパン島は戦火に包まれた。日系二世の「ショーティ」は、アメリカ軍の一員として上陸した語学兵のひとりだった。忠誠登録を経て帰属国家を示した彼は、捕虜となって帰属国家を見失う日本人と接し、その複雑な心理を目の当たりにする──。
集英社文庫◆定価600円(本体価格)
2008年6月刊
単行本・2004年9月集英社刊
実務に追われる日赤救護看護婦を手伝っていた現地のビルマ人看護婦が全員解雇された。英印軍の攻勢により、ラングーンの兵站病院に撤退命令が出されたのだ。約300キロの道を歩いていく看護婦、傷痍兵、在留邦人、そして、ビルマ人。さまざまな偽りを胸に進む、撤退道の先には──。
文藝春秋
2008年1月刊
昭和20年夏、本土決戦に備えて中学生たちは陣地構築に動員された。度重なる爆撃にさらされ、飢えに苦しみながら辛い作業にあたる少年たち。そんななか一人の少年が指導下士官を殺した。人一倍敵愾心に燃え、大東亜戦争完遂の意気が高い13歳の皇国民は、なぜ歴戦の軍人に銃剣を向けたのか?
双葉文庫
2007年10月刊
単行本・2003年5月双葉社刊
本当は存在しない敵の姿を、なぜ人は必死になって追い求めるのだろう──昭和20年8月14日、敗戦の噂がまことしやかに流れる沖縄の捕虜収容所で、血眼になって二人の人間を捜す男の姿があった。一人は自らの命の恩人ミヨ。もう一人はミヨを死に追いやった男・阿賀野。執念の調査は、やがてミヨのおぼろげな消息と、阿賀野の意外な正体を明らかにしていく。
新潮社
2007年7月刊
自衛隊は隊員に存在意義を見失わせる「軍隊」だった。訓練の意味は何か。組織の目標は何か。誰もが越えねばならないその壁を前にしていた一人の若い隊員は、隊長室から発見された盗聴器に初めて明確な「敵」を実感する…。自衛隊という閉鎖空間をユーモラスに描き第14回メフィスト賞を受賞したデビュー作。
文春文庫
2006年11月刊
単行本・2000年4月講談社ノベルス刊『UNKNOWN』改題
昭和二十年四月、アメリカ軍が沖縄本島に上陸したとき、安次嶺弥一は十一歳だった。学校教育が示すまま郷土の言葉を封じて生きる彼の前に、同じく郷土の言葉を封じたアメリカ人が突然日本兵の姿で現れる。本来出会うはずのなかった彼らは、努力をもって体得した日本の標準語で時間を共有し、意思を伝え、距離を詰めていく──。
新潮文庫
2006年7月刊
単行本・2003年11月新潮社刊
昭和20年5月。逃亡兵となった19歳の青年は、置き去りにされた赤ん坊を探すため、戦火の沖縄を故郷の村へ向けて北上する。生きているはずがない赤子のために命を賭けたのは、なぜか。極限下で、人は何を「信じる」ことができるのか?
新潮社
2005年12月刊
太平洋戦争末期のフィリピン、ルソン島。鳴神中尉がそこで見た“地獄”とは? 小隊は任務を遂行して生還することができるのか? ルールに生かされ、ルールに殺された人々を描いた古処戦争小説第1弾
集英社文庫
2005年7月刊
単行本・2002年4月集英社刊
あれは事故死なんかじゃない。親友の死に同級生・相良優は不審を抱く。城戸ら不良グループが関与しているはずだ、と。葬儀当日、担任教師の車で相良・城戸を含む同級生6名が式場へ向う途中、大地震が発生! 一行は崩落した地下駐車場に閉じこめられてしまう。密室化した暗闇、やがて見つかる城戸の死体…。極限状況下の高校生たちに何が起きたのか。
新潮文庫
2005年5月刊
単行本・2000年9月講談社ノベルス刊『少年たちの密室』改題