わたくし、つまりNobody賞

2019年 第12回

小佐野彈 小佐野彈 小佐野彈

【略歴】

1983年、東京生まれ。1997年、慶應義塾中等部在学中に作歌を始める。 2007年、慶應義塾大学経済学部卒業。大学院進学後に台湾にて起業。 2017年、「無垢な日本で」で第60回短歌研究新人賞受賞。 2018年、第一歌集『メタリック』刊行。 2019年、歌集『メタリック』で第63回現代歌人協会賞を受賞。 同年、中篇小説『車軸』を刊行し、小説家デビュー。 歌人集団「かばんの会」所属。

【授賞理由】

むらさきの性もてあます僕だから次は蝸牛として生まれたい
擁きあふときあなたから匂ひ立つ雌雄それぞれわたしのものだ
(第一歌集『メタリック』より)

赤であり青でもあると同時に、赤でもなく青でもない「むらさきの性」。この自己規定には与えられた属性への抵抗と、それを超える自由への切実な希求がある。小佐野氏の短歌には、男と女という二項対立を等身大のリアリティで超えるやわらかなセクシュアリティと、人を恋うる気持ちの普遍性があり、それを衒いなく描く健康な感性と、古典的でありながら新鮮な言語感覚に大きな魅力がある。短歌以外のジャンルにも積極的に挑戦しながら、既成の価値観を超えて「未だ言葉にされ得ないもの」に迫ろうとする小佐野氏の表現に期待し、当賞を贈ります。

【ブックリスト】

僕は失くした恋しか歌えない
僕は失くした恋しか歌えない

有名企業の経営者一族に生まれ、何不自由ない学生生活を送っているフリをしていた「僕」、性愛の対象が同性であることに気付いたのは、中学生の頃だった。
同級生への初恋、出会い系サイトでの冒険、そして人生初の大失恋と、母への露呈――恋に恋する少年だった「僕」が、出会いと別れを経て大人の歌人になっていく過程を、胸焦がす恋情の短歌とともに瑞々しい散文で書き上げる。
現代の「ビルドゥングスロマン(成長小説)」と呼ぶに相応しい、自伝的青春「歌物語」小説。
第二歌集『銀河一族』(短歌研究社)と一挙に同時刊行!

新潮社◆定価1,750円(本体価格)
2021年11月刊

銀河一族
銀河一族 (歌集)

授かったのは、華麗で複雑な生い立ちではない。 それを歌う力だ。 ——俵万智(歌人)
政商と呼ばれた一族に生まれた葛藤と苦悩をうたう。 長歌を含む340首をおさめた第二歌集。

短歌研究社◆定価2,000円(本体価格)
2021年11月刊

車軸
車軸

地方の裕福な実家を「偽物」と嫌悪する真奈美は、新宿歌舞伎町で、資産家でゲイの潤と知り合う。ホストの聖也を共有、やがて互いを渇望するようになった二人の行く末は——。暴力的なまでに切ない、ある愛の物語。第一歌集『メタリック』で数々の賞を受賞した気鋭の歌人、鮮烈な小説デビュー!

集英社◆定価1,300円(本体価格)
2019年6月刊

メタリック (歌集)
メタリック (歌集)

オープンリーゲイとして生きる自分を、短歌という「31文字の文学」で表現する。歌壇でもっとも歴史ある新人賞である短歌研究新人賞の受賞作となった「無垢な日本で」、ホストとの関係を通じて歌舞伎町の虚と実を歌った大連作「メタリック」など、歌の力を生き生きと感じる鮮烈な第一歌集。

短歌研究社◆定価2,000円(本体価格)
2018年5月刊

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